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「その瞳にうつるもの」 / 「屋上夜話」 / 「渋谷まいごっこ」

『妖玄坂不動さん』 「渋谷まいごっこ」
「んなわけで!!」
 銀色のボウルになみなみお湯をはり、そこに肩まで浸かったカノンが声を荒げる。
「いやいやいや、わけでじゃなくって、河童ってこんなんで復活すんのかよ!?」
 幸が目をまん丸くさせる。
「さっきはちょっとグロテスクでしたけどね」
 桐が眼鏡を指であげながら答えた。
 河童のカノンは緑色と茶色が混ざった歌舞伎揚げみたいな姿で坂上不動産に運びこまれた。持ち帰って来た百目小僧は酷く興奮していて(あたりまえだが)何を言っているのかまったく分からなかったが、満留は一目見てそのできの悪い歌舞伎揚げが河童だと見抜いたのだ。
 理由は『なんとなく』。
(自分の姉ながら恐ろしい勘だ……)
 その後、満留の指示により、人肌のお湯に3分浸してみたところ、
「んなわけで!!」
 と河童のカノンが元気に声をあげたのだ。
 幸も桐もまさか歌舞伎揚げが河童になるとは思わなかったので最初はへらへら笑って見ていたのだが、本当に河童が出て来たので唖然としていた。
(いや、でも確かに変なの……河童って皆こうなのかな?)
 陽介がボウルの中で気持ち良さそうに浮かんでいる河童に視線をうつす。と、目が合った。さっきは歌舞伎揚げから元に戻ったばかりで混乱していたらしく「わけで! わけで!」としか叫んでいなかった河童が初めて「わけで」以外の言葉を発した。
「よすけとは御主か?」
 陽介の胸がドクンと鳴った。
 幸と桐の表情が変わる。明らかに戦闘態勢に入った。二人の体を熱っぽい妖気が覆う。

 
バコン!!

 
今にも河童を締め上げそうな幸の頭を満留が分厚いファイルでひっぱたいた。
「いてぇ!!」
「なぁに戦闘態勢入ってんのよ! うっとうしい! 桐もっ、やめなさい、モヤモヤしたもん出すの」
 満留に睨まれた桐が肩をすくめてみせる。幸も桐も満留にはかなわないのだ。満留がこの坂上不動産の代表取締役で幸と桐が平社員……だからというだけではない。満留の体の中には数多の陰陽師を手こずらせてきた名もない妖怪が封じられている。そのせいで彼女は年をとらずに幼い少女の姿のまま生きてきた。それは想像できないほどの苦痛であり逃れられない運命であった。しかし、彼女にはその妖怪を封じ込めておくだけの特殊な力があったし、幸と桐は彼女の存在に敬意を払っているのだ。
「よすけ殿ほど妖怪に好かれておる人間は珍しいわけで……」
 言いながらカノンがボウルから出てくる。 
 すかさず百目小僧が三匹、すすすっと前へ出るとティッシュを三枚渡した。カノンはうむ、と頷き体を拭き始めた。が、濡れたティッシュはカノンの緑色の肌のあちこちにへばりつき、うっとうしいことになってしまった。まとわりつくティッシュを取ろうと、四苦八苦するカノンの姿を見て百目小僧達は右へ左へ転がりながら大笑いしている。
「こら、ひーちゃん」
 笑われたカノンが泣き出しそうになっていたので陽介が転がる百目小僧達をそっと止める。
 カノンは大きく目を見開くと素早く土下座をし、
「よすけ殿に頼みがあるわけで!」
 と深々頭を下げた。
「え?」
 カノンが真っ直ぐに陽介を見る。
「姫子様が迷子です」
「姫子って誰だよ。お前さ、もっとこう、ちゃんと一から順に説明しないと分かんないだろ?」
 幸がカノンの頭の上にある皿を指でグイグイ押す。大事であろう皿を押されながら、今度は幸の顔を真っ直ぐに見据えたカノンが口を開く。
「詳しい事は姫子様の口からしか言えない決まりなわけで……ってその姫子様がいないわけで?!!」
 言いながらカノンが後ろにひっくり返る。
「……」
「……」
「……」
「……」
「ええと? 今のはギャク……なのかな?」
 誰も突っ込まないので陽介がとりあえず口を開いた。幸も桐も満留も、百目小僧でさえも半目でカノンを見ていた。
 その雰囲気に気がついたカノンが皿を真っ赤にして答える。
「いや、ギャグは説明するものではないわけで。しかも今言ったことは嘘なわけで……」
「うりゃぁ!!」
 堪忍袋の緒が切れた幸が、カノンの頭に思いっきりデコピンした……ら、

 
パキンッ

 
割れた。
 河童の皿が割れてしまった。カノンは白目をむいている。
「っ!?」
 デコピンをした本人、幸がびっくりしすぎて声にならない悲鳴をあげた。白目のカノンの頭の上から真っ二つに割れた皿がゆっくりと落ちていく。
「いやぁ! 落ちる! 河童の皿が落ちる! ちょっと桐! どうにかしなさい!」
「どうしようもないですね」
 パニクって桐のシャツの裾を引っ張る満留に桐が冷静に答えている。
「だだだだ、大丈夫!?」
 動揺しながらも皿を押さえようと陽介が手を伸ばした瞬間、カノンはグリンッと白目を元に戻して、
「皿のかえ時なわけで!!」
 叫んだ。
 そして幸がカノンを吹っ飛ばした。
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